今回はみりんちゃんの「結婚」に関する発言を軸にして、その背景にある強い想いについて語ります。
目次
はじめに
みりんちゃんの結婚発表から半月以上経過した。それをきっかけに繰り広げられたアイドルと結婚に関する世間での論議も収まった。
みりんちゃんを知る人は「祝福されたのは、みりんちゃんだから」と口々に呟いた。その中でそれが最も的確に表現されてたのが、ネット記事中の以下の表現だ。
そして、古川未鈴の活動が、一点の曇りもないひたむきな情熱で裏打ちされていることを、多くのファンが心から認めているという事実も、あのような空間が生まれた大きな理由として挙げておくべきだろう。*1
今回は、彼女の「結婚」に関する発言を軸にして、この「一点の曇りもないひたむきな情熱」について語り、最後に妄想を付け加える(笑)。
新しい夢
結婚発表は突然のもののように世間に思われている。しかし、ファンはよく知るように、みりんちゃんは以前から結婚のことは口にしていた。しかもその内容は一貫しており、時間の経過とともに着実に深化している。まず、その過程を追っていこう。
筆者の知る最初の発言が、以下の2016年4月のインタビューである。
──自分たちの将来についてはイメージしていますか?
古川 このダンスをいつまでできるかっていうのは課題ですよね。あと、もし結婚とかすることになったら、普通はアイドル辞めるじゃないですか。それを変えられたらいいなっていうのはちょっと思ってて。まあ、まだ結婚とか全然ないんですけど(笑)。*2
以前は「30歳になったら死ぬ」といっていた彼女だが*3、武道館ライブが成功し、アイドルという仕事が軌道に乗り、将来の自分のことを考えられるようになったのだろう。抽象的だが次の夢に対する意識が芽生えたのだ。
同年冬のインタビューでは、その夢の背景にある強い想いを語る。
"アイドル"っていうだけで下に見られるとか、それが嫌で、だから"アイドル"っていう言葉がもうちょっとだけ尊重されるその前例を作れたら、もしかしたらアイドル界に歴史を刻めるかな、そしたら日本の女性アイドルの在り方が変わるんですよ。*4
そして「それが出来たら死んでもいいかな」とまで言い切る。
2018年の早春のインタビューでもその内容は一貫しており、一寸たりともブレはない*5。
具体化と葛藤
ここまでは抽象的な夢であったが(その自覚の表れがこのツイート)、それが実際の自身の人生とリンクしはじめ、具体的な目標となるのが2018年後半からだ。2018年秋のインタビューでは「10年後」、「家族」、「子供」といった具体的なキーワードが現れる*6。そこでは、ねむさん卒業が大きな影響を与えていることも語られる*7。
同時期のねむさん・りさちーとの鼎談では、アイドルと家庭の両立まで視野に入れてその葛藤を語る*8。「いややっぱり産休は無理だよ」「子持ちのアイドルって応援できるんですか」との発言は真摯さの表れだ*9。
このように真剣に考え始めたのは明確なきっかけがある。2018年のE3取材の際のスタッフからの一言が彼女の目を開かせたのだ*10。1年くらい自分の将来について悩み続けていることを打ち明け、最後にこう締めくくる。
でも、漠然とじゃなく、しっかりと自分の将来を考えられる年になったんだって、もし何かあったら誠意を持って報告できるくらいの存在になりたい・・・・。
ファンに対する誠実さ
ここまでみりんちゃんの結婚発表までの発言を振り返った。結婚発表直後のツイート、インスタストーリーズ、そしてブログ*11*12、すべてと整合性が取れていることがわかるだろう*13*14。
直後のラジオ番組「でんぱ.ch」で語った「アイドルという言葉がもう1歩進化できるといいなと思って決断しました」*15も付け焼刃ではない。
発表後も彼女はファンとのコミュニケーションを続ける。
自身の生誕イベント「みりたん2019」がそれだ。結婚発表の直後の開催であるため、チケット発売は結婚発表前。参加するのは当然コアなファンである。裏切られたと罵声が浴びせられるかもしれないし、そもそも会場はガラガラかもしれない。そんなリスクがある中、ファンと間近で向き合える機会を発表前に用意し、発表後、実際にファンと対峙したのだ。
その場の雰囲気をハッシュタグ「#みりたん2019」でぜひ味わってほしい。参加していない筆者でさえ、もっとファンにならざるを得ないくらい「刺さる」演出だと感じる。複雑な想いで参加したファンも、その想いを昇華できたに違いない*16。
革命家「古川未鈴」
「結婚」というキーワードで彼女の言動を辿ってきた。
冒頭の記事から引用した「一点の曇りもないひたむきな情熱で裏打ちされている」そのものではないだろうか。だから多くのみりん推しは複雑な想いはあるにせよ、発表を受け容れ祝福したのである。
その情熱を支えるのが、アイドルに対して誰よりも高い理想像を持ち、それに向けて地道に試行錯誤を繰り返し、着実にステージアップしてきたことで得た確かな自信*17、そして活動を通じて育ててきたファンに対する強い信頼だ*18。
その浮つかない情熱がインディーズ出身アイドル初の武道館を始めとして、アイドル界に歴史を刻み、影響を与え続けている。
奇矯な発言やパフォーマンスでは到底成し遂げることできない偉業だ。
「静かなる革命家」、彼女のことを筆者はこう呼びたい*19*20。
最後に蛇足となるが、今回の「心に響く未鈴の言葉」はこれである。
諦めないっていうのは難しいよね
でもたぶん
小さい事はあるかもだけど
私まだ大事な事はあきらめたことない
*1:「でんぱ組.inc 「UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019 SPECIAL ~If you want to be happy, be.~」 | ライブレポート | EMTG MUSIC」
*2:でんぱ組.inc「GOGO DEMPA」インタビュー (4/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー
*3:下記記事参照。
*4:『MARQUEE Vol.118』「『WWDBEST』 Interview with 古川未鈴 相沢梨紗 夢眠ねむ」p.19
*5:『 MARQUEE Vol.126』「でんぱの帰還。新体制でんぱ組.inc」 p.15
*6:『 MARQUEE Vol.130』「今、このタイミングだからこそ確かめたいみりんちゃんのアイドル意思」p.23
*7:自身初の結婚式への参加となる、でんぱOB「跡部みぅ」の結婚も影響しているだろう。下記記事でわかるように、みぅの結婚式前後で、ラジオ番組「でんぱ.ch」で「結婚」のキーワードが増えている。
*8:『まろやかな狂気2 夢眠ねむ遺言集』「対談 夢眠ねむ×古川未鈴×相沢梨沙」p.72
*9:アイドルという職業の報われなさに対しても話題に上っている。その最後のねむさんとみりんちゃんのやり取りはグッとくるので是非読んでほしい。
*10:『MARQUEE Vol.133』「その後、夢眠ねむ卒業、新生でんぱ組始動、さて、みりんちゃん個人は?」
*11:今思ってること | でんぱ組.inc 古川未鈴オフィシャルブログ「みりんのメモ帳.txt」Powered by Ameba
*12:2019/12/27追記)
結婚を決めるきっかけの1つである女性の病気の話も2017/2/15のでんぱ.chでのトークと符合する。
*13:幸運にも結婚発表の場にいた筆者はこれまでのインタビューを読んでいたので特に唐突さを感じることなく素直に祝福できた。赤の他人の幸せがこんなにうれしいなんて、えいたそがプリキュアになったとき以来、人生2度目だ(笑)。
*14:ここまで読んだ方は少し心配するのではないだろうか?みりんちゃんは自分の夢のため「だけに」結婚したのではないか、もっと露骨に言うと「手段として」結婚したのではないかと。
だから、みりんちゃんの友人のツイート「付き合いたての頃のみりんちゃんが本当に幸せそうで」(削除済)を見て安堵した。それが知りたかったのだ。
とは言いつつ、結婚後の言動(特にツイッター)を見ていると、とても結婚している生活に見えない(笑)
*15:古川未鈴、結婚で「アイドルが進化できるといいな」 - 芸能 : 日刊スポーツ
*16:2019/10/14追記)
ガチ推しの方々の言動を見ると、「粋」「漢」という言葉は彼らのためにある、と心から思う。
*17:弱気な発言が目立つみりんちゃんだが、それは「みりんメソッド」(「でんぱの神様#213」参照)と捉えるべきだ。彼女の本質は、負けず嫌いの強気の自信家だと筆者は思う。
*18:ファンへの信頼に関して、ねむさんが興味深いエピソードを語る。売れ始めてディアステージに立てなくなった頃のことだ。
ねむ 店型のアイドルなのに大丈夫かなって。でも、未鈴ちゃんは「店に出れないくらいが自分の思い描いていたアイドルになれているからこれでいいんだ」っていうようなことを言っていて。メジャーでやってるのはそういうことだからっていう(『まろやかな狂気2 夢眠ねむ遺言集』「対談 夢眠ねむ×古川未鈴×相沢梨沙」p.64)。
*19:このツイートにあるように前山田氏がずっと前に歌詞にしてたことなので今更ではあるが(笑)
*20:2019/10/13追記)
記事の構成上、みりんちゃんにスポットを当てたが、結婚とアイドルの両立の先駆者と言えば、NegiccoのNao☆のことを忘れてはならない。結婚発表前後のインタビューがあるので、ぜひ読み比べていただきたい。彼女も静かなる革命家の一人である。
発表前:Negicco・Nao☆さん「結婚、出産してもアイドルを続けられたら」
発表前:Negicco・Nao☆さん「私が結婚とアイドルの続行を決断するまで」
*21:2019/11/23追記)
Yumiko先生の次のような証言もあるが、これは文脈上、他者に対する期待をしない、という意味に捉えるべきであり、自身の夢をあきらめないこととの矛盾はしないと考える(『でんぱブック でんぱ組.inc』「Yumiko先生に訊くでんぱ組.incの振付け Part 2」, p.110)。
―みりんちゃんて、なかなか自分から言ってこないじゃないですか。そこで諦めちゃって、世の中と自分は関係ないやって無気力になっちゃうんでしょうね。
「そうなんですよ。そういう中で決行、彼女の中では数少ないあきらめたくないことの一つだったんですよ、私の存在っていうのが。