以前、「#でんファミレビュー」キャンペーン用にツイートした以下のメッセージの解説を行うとともに、最新アルバムの総論を述べます。
でんぱ組はMacintoshである。
— 弥紀 (@yaki2019) 2020年4月22日
マジョリティには決してなれないが、その肌触りと背景にある精神性を愛するファンが一定以上のマスを構成する、そういうポジションという点で。
その伝でいけば今回のアルバムは、帰ってきたジョブスの下、満を持して発表された新OS”Mac OS X”だ。#でんファミレビュー
目次
類似する物語
でんぱ組とMacintoshの歴史は似ている。
少々恣意的な比較となるが、以下の表をご覧いただきたい。その際、行毎に左列の「ポイント」から右側に視線を走らせてほしい。
ポイント | ||
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2人の若者で創業 |
スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックでApple Computer設立 |
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デビュー。 オリジナリティ、ファッション性の高さで注目を集める |
でんぱ組.incメジャーデビュー |
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絶頂期 |
伝説の武道館コンサート |
米スーパーボールでの伝説的CM「1984」 |
キーパーソンの離脱と、次世代技術の育成 |
もふくちゃんがでんぱ組プロジェクトからフェードアウトし、虹のコンキスタドールなど担当 |
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混迷期 |
コンセプト迷走。類似グループの登場 |
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存続危機 | ライブ活動停止など、実質活動停止 | 倒産一歩手前 |
次世代技術を携えキーパーソンの復帰 |
ぺろりん、ねもちゃん加入 |
NeXT社の技術とともにジョブズ復帰 |
新しいビジュアルとコンセプトで世間をあっと言わせる |
いのちのよろこび発表 |
iMac発表 |
新世代の基軸を盛り込んだプロダクトを発表 |
新機軸に取り組んだコンセプトアルバム「愛は地球を救うんさ!~」を発表 |
新世代OS「Mac OS X」発表 |
いかがだろうか?映画のプロット風にまとめると次のようになる。
2人の若者が事業を立ち上げ、画期的な製品をリリースする。
一旦は絶頂を究めるも、創業者の1人がプロジェクトから離脱し、それに伴う求心力の低下から存続の危機に至るが、何とか復活する。
しかもその復活には創業者が離脱時に育てた技術が大きく寄与している。
全く同じではないか。両者の歴史、いや物語と言っていいだろう、は同じ構造を持っているのだ*4。
その完全復活した新生でんぱ組の象徴が最新アルバム『愛が地球救うんさ!~』である。
『愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ』の意義
なぜ本アルバムが新生でんぱ組の象徴だと言えるのか?
まず、リリースタイミングが、でんぱ組の物語の第三部の開始タイミングにあたるという点。これについては、下記記事を参照されたい。
次に、「愛」「ファミリー」をアルバムのコンセプトに据えている点。このコンセプトは、前アルバム*5で振り返った過去をすべて肯定し、止揚したものであり、今後のでんぱ組の基本コンセプトとなるはずのものであり、まさしく新生でんぱ組を象徴している。
新生でんぱ組はコンセプトや理念だけに留まらない。
楽曲面では、玉屋2060%氏、前山田健一氏、清竜人氏、浅野尚志氏といった、従来からのクリエータによる既存路線の深化に加え、諭吉佳作/men氏やニガミ17才氏といった新進気鋭のクリエータの起用により、アグレッシブに進化を取り入れている。前作が、H ZETT M氏の楽曲を除きウェルメイド路線だったのとは対照的だ。
歌唱面でも、いわゆるでんぱ組らしさは力強さと表現力を増すとともに、エモーショナルな表現やアンニュイな歌い方に挑戦するなど、その深化と進化は楽曲サイドに見劣りしない。
また、プロモーション面でも本アルバムは注目される。リリース時のプロモーション活動の規模を思い返してみてほしい。旧6人時代以降、これだけメディアに露出があるのは初めてではないだろうか*6。新生でんぱ組をアピールしたいという想いや、本アルバムに対する自信があるからこそである*7*8。
『愛は地球を救うんさ!~』はMac OS Xである
一方、復活したApple社が、iMacなどを経て、満を持して発表した新世代OS「Mac OS X」。
既存のアプリケーションとの互換性を持たせつつ、UNIXをベースにした信頼性の高いコア部分と、Aquaと呼ばれる直感性が高くエモーショナルな新世代のGUIを導入した、完全新設計のOSである。まさに新生Macintoshの象徴と言える。
ゆえに、Mac OS Xはでんぱ組における『愛は地球を救うんさ!~』であり、『愛は地球を救うんさ!~』はMacintoshにおけるMac OS Xなのだ。
Mac OS Xリリース後、MacintoshはMacBookをドライバとして、そのユーザ層を大きく拡大した。
その要因としては、Mac OS Xの成熟はもちろんだが、ハードウェアとOSとを一体として作り込だプロダクトの品質の高さ、そしてスタバで取り出してドヤ顔のできるファッション性が大きいだろう。
でんぱ組も、もふくちゃんの下記の発言に見られるように、楽曲の質とファッション性を高く保つことに注力しているが*9、MacBookの成功、そして歴史の類似性を振り返ると、分野は違えどその戦略は正しいように筆者には思える。
もふくちゃん : 私はその辺のノウハウがわかるような気がして。やっぱりアートワークとかパフォーマンス。すごい基本的なことだけど、それが絶対に必要だから。とにかく驚きや面白さのあるヴィジュアルや、すごくいい音楽を作り続けてさえいれば、ムーブメントやブームというわけでもなくても、人って残るし。
脚注
*1:どうでもいいことだが、スティーブ・ジョブズの見た目の変遷はアメリカ社会の変化を反映しており、まるで映画「フォレストガンプ」を見ているようだ。
*2:言うまでもなく二人はでんぱ組の共同創業者である。
それにしても、このプリクラにおけるもふくちゃんのマダム感は何なんだ(笑)。
*3:ちなみに筆者はこの時期、Windows95リリースとともにWindowsに鞍替えした(笑)。
*4:もちろん、差異が目立たないようにまとめただけだが。
*5:『ワレワレハデンパグミインクダ』が過去を振り返るものになっている点については下記記事を参照。
*6:目立つものだけでも、『でんぱ組.incぴあ (ぴあ MOOK)』、『豪の部屋』へのみりんちゃん出演、『IDOL AND READ 022』でのみりんちゃんインタビュー、『でんぱ組.inc「愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ」インタビュー|今だから歌える愛の形 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー』などが挙げられる。
*7:なお、新型コロナ対策ではあったにせよ、第1回の武道館ライブを始めとする3ライブの期間限定無料配信もプロモーションとしての効果が大きかったように思う。この配信は、もが脱退・ねむ卒業で他界した人々を新生でんぱ組に再注目させた。そのことは、動画コメント欄の多くは過去にファンだった人たちによるものだったことから明らかだ。
*8:5月中旬以降、なぜか本ブログへのアクセスが1桁増えた。しかも普段人気のない(苦笑)「でんぱ組 物語論」や「心に響く未鈴の言葉」にアクセスしてくれており、アクセスの傾向の違いから新規ファンや復帰ファンによるものではないかと思われる。
*9:『新しい時代に、新しい刺激とワクワク感を! でんぱ組.inc 古川未鈴 × もふくちゃん座談会 - OTOTOY』