ちいさなことだが気になっていることがある。
でんぱ組のトイズファクトリー(以下トイズ)との契約の前後にあった重要なイベントの時間関係である。関係者間で微妙に食い違っているのだ。
今回は関係者の証言をまとめ、そこから真実を追求していきたい。
目次
もふくちゃんの証言
まず、でんぱ組プロデューサーであるもふくちゃんの証言を見てみよう*1(太字は筆者によるものである)。
(もふくちゃん)そうそう。なんか自分もオタクもみんな同等にね、「わーい!」って愛を分け隔てなくあげていて、「現代のナイチンゲールだ!」って言ったのが2011年の3.11の日ですよ。
(吉田豪)へー!
(もふくちゃん)あ、それがね、えいたその話があったのが3月の前半の方だったのかな? それでその後、契約をしに来たんですよ。
<中略>
(もふくちゃん)そう。「契約をしよう」みたいな話になったのが3月11日の大震災の直前だったんですよ。で、直前に……いまでも忘れないですよ。その社長とミズノさんが来て。「わかりました」って。
<中略>
(もふくちゃん)1回もね、社長はその話はしないで。「実はね、もふくちゃん。僕はお忍びでミズノくんと一緒にえいたその接客を受けたんだ。感動した。ここに僕は未来があると思っているから、ディアステージと一緒にやっていきたい!」って言われて。
(吉田豪)すごいな、本当に。
まとめると、以下のような前後関係である。
- 3/初 えいたそ接客
- 3/11 契約意向表明
トイズ水野氏の証言
つぎにトイズファクトリーのでんぱ組担当ディレクター(現A&R担当)である水野氏の証言である*2。
—いよいよ社長とディアステに。
「そうです。3月11日のお昼頃に集合して、もふくちゃんと会って、その瞬間、社長も面白いと思ってくれて、話もすごく盛り上がったんですよ。うちの社長は、そこでお金の話もしないし、何枚メジャーで売るべきだって言わないし、あの時にもふくちゃんに言ったのは『今のままが最高だけど、何か一緒にやれたらいいよね』っていうことで、全然そこで契約しようっていう話にもならなくて」
—で、その後社長がえいちゃんと出会うんですね。
<中略>
—「そうですね。六本木TSUTSYA(ママ)のイベントの前か後くらい。」
<中略>
—そしてMEME TOKYOの設立。どういう風に具体化していったんですか?
「決定的だったのは、六本木TSUTAYAでのイベントでした。そこで社長が、以前からお知り合いの村上隆さんに偶然お会いして「今度もふくちゃんと一緒に仕事をしようと思ってて観に来たんですよ」と言ったら、前の方に連れて行ってくれて。
ここで出てくる「六本木TSUTAYA」とは「最前ゼロゼロ」*3のことだろう。開催日は2011/4/22である。これから読み取れるのは以下の前後関係である。
- 3/11 初顔合わせ。両者意気投合
- 社長へのえいたそ接客
- 4/22 契約の意向を固める
お気づきいただけるように、3/11はあくまでも意気投合までて、契約の話はしていないと明言しており、もふくちゃんの証言と矛盾する。
また、稲葉社長へのえいたそ接客のタイミングも3/11以降となっている。ただし、これについては次に引用する稲葉社長の証言とは矛盾しており、なおかつ、えいたその接客を受けた上での初顔合わせのはずなので、何かの記憶違い、あるいは記事編集ミスだと思われる。
トイズ稲葉社長の証言
—社長自ら行かれたんですね。
稲葉 <略>それで、レーベルの人間が行くということを伏せて行きました。たまたま2階のメイドカフェに入ったら、えいたそちゃんが相手をしてくれたんですけど、まるで天使に遭遇したかのような、心の癒しや楽しさを感じたんですよね。
<中略>
今までに見たこともないような世界をゼロから作っていくというところにも非常に共感して、ぜひ一緒にやりたいなと思いましたね。
<中略>
稲葉 <略>その後、六本木のTSUTAYAのイベント(「最前00」)を観に行ったんですが<略>それに加えて、ファンタジスタ歌麿呂くんや村上隆さんがいたことも大きかった。僕は村上さんとは長く仕事をしてきているので、この組み合わせは面白いと感じて、そこで最終的な確信を持ちましたね。
日付を明言していないが、他の証言と総合すると「ぜひ一緒にやりたいなと思いましたね」は3/11のことだろう。となると読み取れる前後関係は以下のとおりである。
- えいたそ接客
- 3/11 初顔合わせ。両者意気投合
- 4/22 契約の意向を固める
結論
稲葉社長と水野氏の4/22に関するディテールが一致しており、その部分の信憑性は高い。したがって、契約の意向を固めたのは4/22はほぼ間違いない。もふくちゃんの証言は、何か記憶違いをしている、あるいは表現が不適切*5だったものと思われる。
したがって、総合すると以下の順番が正しいと考えられる*6
- 3/初 えいたそ接客
- 3/11 初顔合わせ。両者意気投合
- 4/22 契約の意向を固める
追加情報(2020/08/13追記)
みりんちゃんの次の証言を見ると、もふくちゃんと同様「最前ゼロゼロ」より前に契約がなされているとの認識のようである。
その後のでんぱ組.incを作ってくれたみなさまが、そこに集結していたと思うんですよ。その時点でトイズファクトリーからデビューすることも決まっていて、今はもう普通ですけど、アイドルとハイブランドがコラボするのはあれがはしりだったんじゃないかな*7。
確かにこれだけのお金と人が動くというのは、メジャーデビューが決まっているからというのはあるのかもしれない。3/11に正式契約ではないが、LOI(意向表明書)やMOU(基本合意書)のようなレベルのなんらかの意思表示を示した可能性はある。
本記事については、今後も必要に応じて更新・追記を行っていく。
脚注
*1:
*2:『でんぱブック でんぱ組.inc』,「でんぱ組.inc 担当ディレクター水野考昭氏にきいてみた。」,pp.102-105
*4:『でんぱ組.incぴあ (ぴあ MOOK)』,「でんぱ組.incを世に出したレーベルトップが語る9年間の軌跡」,pp56-59
*5:2020/08/23追記)
最近のインタビューで、もふくちゃんは「でんぱ組は契約したあの日に一種の宿命を背負ってしまった」と語っている。「あの日」とは東日本大震災の起こった3/11である。したがって、記事の記載が不適切だったという線は薄い。
『 2010年代のアイドルシーン Vol.4 』「アキバ系カルチャーとのクロスオーバー(後編)」
*6:結果的に稲葉社長の証言が正しいとの結論となったが、社長の発言の重みを考えれば、ある意味当然ともいえる。インタビュー前に秘書がでんぱ組やこれまでの経緯などに関する情報をまとめて、レクチャーしたはずだからである。
*7:『IDOL AND READ 009』p.21