前回予告した通り、えいたその歌声の予備的に分析を行った結果を報告します。
時間のない方は「まとめ」だけでも読んでください。
まとめ
- えいたその声は4000~8000Hzの倍音が強く出ていることが確認された。
- その傾向は歌の上手さで定評のあるメンバー(りさ、みぅ)にも見られるが、えいたそほど顕著でない。
- 2000Hz付近が強く出ていることは確認できなかった。
目次
本分析は、詳細な分析を行う観点の見極めを行うことを目的に実施する。
なお、分析条件については末尾にまとめた。
予備分析の結果 (1) 先行研究での指摘の確認
まず、先行研究で指摘されたうち、周波数特性に関する以下の特徴について確認してみる。
- 人の耳の感度のよい2000Hz付近がよく出ている
- 4000〜7000Hzの帯域が強い
クロマチックな発声での確認
まず、被験者eitasoが音程C4からC5まで半音ずつ上げながら「ラー」と発声したスペクトログラムの図を示す。
ここで図の見方を説明する。縦軸が周波数(上にいくほど音が高い)となっており、左端に周波数の目盛りを示す。色は音の強度を示し、黒が無音で、赤、黄、緑の順にその周波数の音が強いことを表す。
図中の横縞は倍音に対応する。歌声のように音程を持った音は、その音程の整数倍の周波数の音を含んでおり、その音を倍音と呼ぶ。本試料では半音ずつ上げながら発声したので、縞模様が階段状になり、間隔が段階的に広がっている。
この図からは次のことがわかる。基音(500Hz弱)から10,000Hzを超える帯域まで、縞模様すなわち倍音が出ており、特に4,000~8,000Hz(赤の一点鎖線の枠)で明確だ。先行研究での指摘2がほぼ確認できたと言える。一方、2,000Hz付近(青の枠線の枠)についてはむしろその上下の周波数より弱く、指摘1については確認できなかった。
メンバー間の比較
次に被験者(メンバー)間の比較を行う。これにより上述の特徴が一般的なものでないことを確認でき、またその他の特徴も見いせる可能性があるためである。
下図に、B4(500Hz弱)の音程で「ラー」と発声した各被験者のスペクトログラムを示す。2011年に取得されたデータなので、被験者はeitaso、mirin、nemu、risa、miuの5人である。ここで音程としてB4を選んだのは、前述の特徴が最も顕著に表れた音程だからである。
図から明らかなように、被験者eitasoは他の被験者と比べても4000~8000Hzが強く出ている。面白いのは、risa、miuという歌唱力に定評のある被験者の方が、そうでない被験者に比べ、eitasoほどでないにせよ、当該周波数帯域で倍音が目立つという点だ。この点については別途議論する。
また、eitaso単独では確認できなかった、2000Hz付近が強く出ている点については、他の被験者よりはレベルは高い傾向にあるもののそこまで明確ではない。むしろmiuの方が強く出ている。
次回予告
次回は、観察で得られたその他の知見を報告する予定である。
分析条件
試料
Sound & Recording Magazine (サウンド アンド レコーディング マガジン) 2011年 12月号 (DVD-ROM、CD-ROM付き) [雑誌]
各波形はサンプリング周波数44.1Hz、量子化ビット数16bitでサンプリングされている。