今回はこれまでの分析を振り返りました。
目次
- これまでの経緯
- 【知見1】 3~5倍音が、基音や2倍音に比べて強いyaki.hatenablog.jp
- 【知見2】 整数次倍音が高域まで強く、非整数次倍音が弱い
- 【知見3】 弱いながらもシンガーズ・フォルマントが存在する
- 次回予告
これまでの経緯
今回の企画では、でんぱ組の楽曲の魅力の一つがそのユニゾンにあり、そのユニゾンの要が「えいたそ」の歌声であるという仮定のもと、でんぱ組の楽曲の魅力の謎に迫るため、えいたその歌声の特徴を分析している。
まだまだ目標に向けた道のりは長いが、これまでに音色の観点でいくつかの知見を得たので、それらを一旦振り返ってみたい。
【知見1】 3~5倍音が、基音や2倍音に比べて強い
yaki.hatenablog.jp
えいたその歌声は、3~5倍音が、基音や2倍音に比べて強い傾向にある。
歌声は基本的にその音程の周波数(基音)の整数倍の周波数の音で構成される、例えば音程C5(約520Hz)の場合、その倍音は基音も含め520Hz、1040Hz、1560Hz、…となる。
えいたそがC4~C5までクロマチックに発声したスペクトログラムを下図に示す。横軸が時間で縦軸が周波数である。黒→緑→黄色→赤の順に音が強いことを示す。
この図を見るとえいたその3~5倍音が基音や2倍音よりも強い傾向にあることがわかる。このような倍音構成を持った楽器としてオーボエやファゴットなどの2枚リードの管楽器がある。いずれも特徴的な音色を持っており、えいたその歌声のユニークさと相通じるものがある。
【知見2】 整数次倍音が高域まで強く、非整数次倍音が弱い
えいたその歌声は、下図の周波数スペクトラムに示すように、整数次倍音が強く、非整数次倍音(雑音成分)がほとんど見られない。音声C5に対応する約520Hzの整数倍の周波数、520Hz、1040Hz、1560Hz、…に鋭いピークが存在し、それがCDの上限に近い20kHzまで続いているのがわかる。
本連載第3回では、えいたその整数次倍音の強さがkifuru:コーヒーと音楽のブログに掲載されているBABY METALのSU-METALの周波数スペクトルに似ていると指摘した。今回、当該ブログのデータと同一音源に対して、独自にSU-METALの周波数スペクトルを同一条件で抽出したので以下に掲載する。音程もC#5(550Hz付近)でありほぼ同じである。
えいたその周波数スペクトルと似ていると言った意味がお分かりいただけただろうか。なお、SU-METALの方が15kHz以上の周波数でのレベルが小さいのは、使用したのが15kHz以上がカットされた圧縮音源のためと思われる。
【知見3】 弱いながらもシンガーズ・フォルマントが存在する
えいたその歌声の周波数スペクトルの大まかな形状(スペクトル包絡)には、シンガーズ・フォルマント(シンギング・フォルマント、歌声フォルマントなどとも呼ばれる)が観察される。
シンガーズ・フォルマントはプロの歌手のスペクトル包絡において見られる、3kHz~4kHzのピークであり、この特徴によりバックの営巣に埋もれず、広い会場の隅まで声を届かせることができる。
以下の音程C4からC5までのスペクトル包絡の赤い破線に囲まれた領域がシンガーズ・フォルマントと考えられる。
ただし、そのピークの高さは、オペラ歌手などでは1~2kHzのピークと同等なのに比べるとかなり弱い。前述のSU-METALのスペクトル包絡を調べたところ、えいたそよりシンガーズ・フォルマントはより明確であった。えいたその歌声はデビュー時のものなので、公平のため、よい素材があれば最近の歌声で再度スペクトル包絡を抽出してみたい。
次回予告
次回はこれらの知見をもとに今回の企画の目的である、えいたそらしいあの特徴的な音色は何に起因するのかを考察していく。