弥紀のblog(仮)

アイドル、特にでんぱ組に関する妄想を語ります。twitter(@yaki2019)で記事の正式リリース告知および近況を呟いています。

でんぱ組の歌声に関する一考察 中編「セルフプロデュースによる表現の拡がり」

今回は前回に引き続きでんぱ組の魅力の1つである「歌声」について、第1期6人時代の後半に開花した表現の幅とその要因について考察します。

なお、前編後編の予定でしたが、語りたい内容が多すぎて溢れてしまい、前編・中編・後編の3部構成に急遽改めました。

目次

拡がりの頂点

第1期6人時代(後期)の歌声の幅を振り返る。

この時期を代表するアルバムはこれだ。

GOGO DEMPA(初回限定盤)(DVD付)

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この時期、各メンバーの表現力と歌唱力が飛躍的に向上した。特にピンキーの上達は目を見張るものがある*1。もがちゃんも持ち味であるウィスパーボイスを磨き、幼さから妖艶さまで幅広い魅力を発揮するようになった。

ねむさんは、前山田氏も高く評価するように元々優れた歌声コントロール能力を持っていたが、喉の故障を経て以降、表現の幅が大きく広がり*2、さらに歌の安定度も増している*3

 

それをいつものように独断と偏見でプロットしたのが下図である。各メンバーの歌声の幅が拡がることで、平面のほぼ全領域が埋め尽くされたのがわかるだろう。これの意味するところは、バランスよく様々な「歌声」を表現できるということだ。

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第1期6人時代(後期)


この図の意味するもう一つのポイントは、メンバー間での歌声の重なり合いだ。すなわち、メンバー間で歌声が似るようになってきている点である。各メンバーもそれを意識して歌い方を調整している。

藤咲 今回の「STAR☆ットしちゃうぜ春だしね」も「そーっと誰かを」のところがどっちかわからないって言われたりして。

夢眠 私もえいたそと自分が区別つかないところが前回のアルバムで1カ所あったから「もうちょっと夢眠ねむみたいにしなきゃ」って思ったり

成瀬 微調整してちょっと離していったもんね*4

このように歌声が似ることは悪い事ばかりではない。歌声を似せることができれば、歌声にグラデーションを付けることができるようになるのだ。ここでは、名曲「きっと、きっとね」を例にとって説明する。

この曲の♪指を鳴らして~行進ーっ♪の部分はりさちー、えいたそ、ピンキーの順に歌っているが*5、りさちーの少し楽しげな声、えいたその胸躍る声、ピンキーの能天気な声(いい意味で)の順に切り替わることで、不安と焦燥感が歌声の切り替わりとともに晴れていき、最後に目の前に希望が見えてくることを見事に表現している。歌声を似せることができる3人のメンバーがいるからこその表現だと思うのは筆者だけだろうか。

 

筆者が『GOGO DEMPA』を「至高のアルバム」と呼ぶのは、1つにはその歌声のバランスのよさにある*6

 

セルフプロデュースの賜物

この表現の幅の拡がりは、各個人のセルフプロデュース力によるものと考えられる。

まず、知っておいてもらいたいのは、でんぱ組ではメンバーに対する定期的ボイストレーニングレッスンを運営側として実施していない、という点である*7。個人的にレッスンに通った「りさちー」も、「結局は自分」*8と断言する。同インタビューで個人レッスンに通ったと打ち明けたねむさんだが、喉を壊した原因である自己流の発声を改める、という要素が大きいと考えられる。

えいたそに至っては、もふくちゃんから「えいちゃんはそのままの良さが消えちゃうからボイトレはしないで」とまで言われたとのこと。サウンドディレクターのYGQ氏も「でんぱ組はしない方がいいと思う。声の質とか、発声法とか。」と持論を述べる。

ボイストレーナーによる指導は歌唱力を高めるには非常に効果的だが、相性のよい先生に当たらないと個性を潰してしまうことになりかねない。もふくちゃんがえいたそに言ったのは、金銭面のことはまず第一だろうが(笑)、そうした弊害も懸念してのことだろう*9

 

ではどうやって表現の幅を拡げたのか。前述のインタビューでりさちーはこう続ける。

宅録音で、自分の歌いやすいように自分の歌をよりよく聞こえる特訓をいっぱい練習する方がいいなって思った。

みりんちゃんも別のインタビューで次のように述べる。

みんなオタクだから理想が高いんですよ。本当は〈もっとこんな感じで歌いたい〉と思っているのに、そこに辿り着けていなくて、悔しいと思いながらがんばってます。*10 。昔はよく泣きながらレコーディングしてましたし(笑)。

つまり、ヲタクならではの探求心と妄想を通じて「自分だけのイマジネーション」を拡げる。それとともに冷静な自己認識とを持ち、理想と現実の差を埋めようと、研鑽を積む。でんぱ組のメンバーは皆それを自ら実践してきた、という訳だ。

 

各メンバーの中で閉じた努力だけでなく、メンバー間のインタラクションも表現の幅の拡がりに大きく貢献している。

前節で述べたように、表現力が高まると他のメンバーとの歌声の類似が発生し、それを避けるために調整が必要となるが、この調整もも表現の幅を拡げるのに寄与していると考えられる。他のメンバーの歌声から離す方向で自らの歌声を磨いていくことになるからである。このことは、グループ内で自分の「ニッチ」*11を見つける過程ともいえる。

でんぱ組はオタクジャンルでメンバーが棲み分けているが、歌声でも棲み分けているのだ。みりんちゃんの「みりん節」もそういった文脈で捉えることができる*12

 

グループの中での立ち位置を考えながら、自らの歌声を̝輝かせようとするセルフプロデュース力、それが、第1期6人時代後期の実りを生んだのだ。蛇足だが、表現の幅の拡がりを示すため、前期と後期を比較した図を以下に掲載する。

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第1期6人時代の変遷

 

もちろん、セルフプロデュースした歌声に対する、スタッフやクリエータによる的確なディレクションも忘れてはならない。詳しくは上述のインタビューや前回参照したミュージックマガジンのインタビューなどを参照してほしい。

 

まとめ

今回は、第1期6人時代の後半に開花した表現の幅とその要因について考察した。本企画最終回である、次回はもがちゃん脱退、ねむさん卒業以降の新体制での歌声について考察する。

yaki.hatenablog.jp

 

 

 

 

*1:初期の段階でその素質に気づいていたえいたその慧眼。

えいたそ 音程は外れてたけど、でもお腹からしっかり声をパーっと出してるから、この子は将来、歌化けるなって思ってたらどんどん上手くなって。(『まろやかな狂気2 夢眠ねむ遺言集』「対談 夢眠ねむ×成瀬瑛美×藤咲彩音」p.82)

*2:「声作らないってどういう意味? 作らない声なんて出したことないよ!」と泣いていた彼女から、卒業ライブ「絢爛マイユース」のラストソロの胸のすくような歌声を誰が想像できただろうか?彼女はアイドルとしてだけでなく「歌手」としてもやり切ったのだ。

*3:歌うパートの難易度のせいかもしれないが、音程に関しては、りさちーやえいたそより安定している、というのが個人的な印象だ。後述するボイストレーニングのおかげだろう。

*4:でんぱ組.inc「GOGO DEMPA」インタビュー (3/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

*5:正直なところ最初のパートを誰が歌っているのか歌声だけでは筆者はわからなかった。大阪城ホールのライブビデオでも映っておらず、映像でも判断できない。消去法でりさちーだと推測したが、念のため『きっと、きっとね。 | パート分け 歌詞帳 (一部除く)』に頼った。経験上、わからないときはだいたいりさちーだ。最も大きな楕円にした所以でもある。

*6:勘のよい方ならお分かりなように、第1期6人時代を前提に縦横の座標軸を決めているからこういう結果になる。GOGO DEMPAを偏愛するあまりの行為、許してほしい(笑)。

*7:でんぱ組.inc×こぶしファクトリー「uP!!!SPECIAL BANQUET」特集|独自の文化を持つ2組が交わる歴史的ツーマン (2/3) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

*8:MARQUEE Vol.130』「でんぱ組.inc 7人体制初アルバム『ワレワレハデンパグミインクダ』全員インタビュー・15000字越えでアルバム解読を大展開!」 p.19

*9:えいたそはアイドル界の野茂英雄で、えいたそボイスは「トルネード投法」(その威力と引き換えに四死球が多い(笑))、そして、もふくちゃん仰木監督だ。

*10:でんぱ組.inc、さらなる拡張めざしてJ-Popを更新せんとする気概に満ちた新アルバム『GOGO DEMPA』を古川未鈴が語る | Mikiki

*11:ニッチとは隙間市場や隙間商品のような意味でつかわれることが多いが、そもそもは生物学用語であり、生態系内での地位を意味する。異なる種が生態系内での競争を避けるため、何らかの差別化で棲み分けた、その差別化条件とも言い換えることができる。

*12:本人もその自覚があるようだ。

未鈴 : へこむけど「じゃあどうやったら増えるかな?」って考えたときに、得意なところを伸ばして苦手なところは最低限できるようになればいいじゃないかと(『新しい時代に、新しい刺激とワクワク感を! でんぱ組.inc 古川未鈴 × もふくちゃん座談会 - OTOTOY』)。